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2022/03/11 18:45
食に関する本が好き。旅に関する本も好き。そのふたつが合わさった、素晴らしい本を見つけてしまった。ノンフィクション作家、中村安希の旅と食のエッセイ。食と言っても、旅先のグルメやレストランを紹介すようなものではなく、見知らぬ土地の見知らぬ人からのもてなしの食について。
見知らぬ人からの…!?
どれだけ見知らぬ人かというと、1番目のエッセイでは、チュニジアにて宿の中庭のベンチで読書をしていた時、知らない男性が無言で小さな花束をプレゼントしてきて受け取り、翌日には同じ男性からケーキの入った小箱を受け取り、数日後にたぶん食事に誘われ(言葉が通じず正確には分からなかったとのこと)、翌朝たまたま居合わせたトルコ人の男性とフランスパンを食べている時に、かの男性について話したら怪しいやつだと言われたけど、一緒に彼の家に行くことを頼んで最終的に二人で食事会に招かれている。
…なんだろう。海外では知らない人についていってはいけなくて、声をかけて来る人には警戒しないといけなくて、よくわからない食べ物はお腹を壊すから食べてはいけないのではなかったでしょうか。
今現在、感染症予防のために大勢での食事や家族以外との食事が制限されていることでも分かるように、本来食事というものは少なからず危険を伴う行為です。体内に直接何かを取り込むというのは、それに何か毒性のものがあればお腹を壊すし体調を崩します。でもだからこそ、食事に招いて共有するという時間は、もてなす側にももてなされる側にも特別で、楽しくて、記憶に残る。
著者の中村さんは、海外旅行におけるタブーといえるようなことを軽々と飛び越えて、見知らぬ人に招いてもらい、知らない料理を堪能し、大笑いして友情を結び、時にはお腹を壊して、熱を出して、それでも世界各地の料理でもてなしてもらう。
中村さんの鍛えられた観察力と判断力あってのことなので、軽々しく真似してはいけないことですが、中村さんを通して見て、感じるこの世界は、なんて広く、知らないことだらけなのかと羨ましくなります。
1番目のエッセイですが、ついつい男性から花束をもらったと聞くと下心があるのかな?と思ってしまいますが、そんなことは全くなくて、それがまたなんだか物語を読んでいるようでとてもよかったです。