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2022/03/11 18:59


写真家・探検家としてだけでなく当代随一の文筆家としても知られた星野道夫の、自然、動物、そして人への畏敬あふれる名篇集。はじめの『クジラの民』だけでもう、頭の中は一気に極北の地へ飛びました。

「満月である。あたりは淡い白夜の光に包まれていた。海は完全に凪いでいる。まるで示し合わせたように、十数艘のウミアックがいっせいに海へすべり出した。たくさんの影が、光る海の中を音もなく一点に向けて進んでいる。きれいだった。自然という巨大な器の中で動く、小さな人間たちの営みが、たまらなくきれいだった。」

星野道夫さんの言葉は静かで優しく、美しい。沁み込むように入り込んで、頭の中に景色が広がっていきます。星野さんの冒険やその土地に住む人々の、想像もつかなかった生活を垣間見て、今このときも、極北の海をクジラが泳ぎ、カリブーの群れが川を渡り、そんな中で生きる人たちがいるという事実に想いを馳せるのは、とても豊かな時間でした。